わりにあわなくとも:未来を

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「お前の口からそんな言葉が出るとはな」  オーガはわずかに舌を出す。 「わしはもちろん。わしらは皆、頭の差し伸べてくれた手に惹かれてついて来てるんです。片腕を失い、里から追い出されたわしを拾ってくださったのは紛れもなく頭だ。弱者に手を差し伸べる。それは結構。立派な信念だと思いやす。でもなぁ、頭」  彼はニ、三の咳ばらいをすると、硬く目を閉じ、ドレイクの目を見据えた。 「もし頭の信念が頭自身を傷つけるようであれば、わしはこの体を張ってでも頭を止めやす。たとえ頭が正しく、そうするべきであろうともです」  気づけば二人は木枠が組まれた広場にいた。空気がよく入るように組まれた薪の中に、ゴブリンたちは今日の死者を館から運び出し放り込んでいく。死体に人族も蛮族も、性別も、年齢も関係なく、木組みの中で一つになっている。 「生きている内は蛮族だ、人族だなど、どうでも良いことでいがみ合っているのに。死んでしまえば皆平等だな」  ドレイクは死体の山を見つめながら言った。  やがてすべての死体は運び出され、火のついた松明を片手にしたゴブリンがやってくる。そしてゴブリンの祈祷師による蛮族流の祈りを捧げると、雪で湿った薪に火をつけた。魂を燃やす炎は、長い時間をかけて大きくなっていく。黒い煙は灰色の空高くへと昇る。頬を、炎が暖かく照らす。ドレイクは目を閉じ外套の下で手を合わせた。 「僕は僕自身の正しいと思うことをする。お前はお前で正しいと思うことをすればいい。ただ、僕の正しいことと、お前の正しいことが同じであることを願っているよ」  オーガは鼻を鳴らし、頬を緩める。ドレイクは炎に背を向けると、オーガの背中を軽く叩き屋敷へと入っていく。  廊下は薄暗く、蝋燭は一つとして灯っていない。彼は一人きりの廊下を進み、うめき声や咳による合唱が聞こえる部屋に入る。先ほど死人を運び出したばかりで、比較的スペースは空いている。その一角に、例の母親が寝かされていた。彼女の顔は綺麗に拭われ、幾分かよく見えるが既に末期症状まで進行している以上、相当な苦しみを感じているはずだ。  ドレイクは短剣の柄を握る。そして音もなく引き抜いた。鏡のように磨かれた刃に、彼の赤い目が映る。しばらく眺めると逆手に持ち替え、剣先を彼女の喉元に向けた。
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