わりにあわなくとも:たとえ

7/7
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/160ページ
 約二週間もの行軍を終え、彼らは村にたどり着く。結局のところ警戒していた者に遭遇することもなく、文字通り無傷で目的の村に到着したのだった。  彼らは今森の中で身をひそめ、陽が落ちるのを待っている。村の川を越えた北側には、小さな教会が一つ存在し、大きさに似合わぬ広大な墓地が広がっているため、日中に出ていくのはさすがに不利と見たのだった。ドレイクは魔法でカラスの使い魔を作り上げ、視界共有を行い偵察に向かわせる。広い墓所にはひっきりなしに人が出入りし、想像に難くない大きなのう袋を運んでいた。  彼らはのう袋を大きな穴に放り込み、土をかぶせる。掘っただけの土を被せたため、のう袋の分だけ地面が盛り上がっている。そして傍に用意してあった純白な十字架らしきものを、作ったばかりの山の向こう側に突きたてた。十字架と言ってもお粗末なもので、左右の腕の高さがずれている。削り跡も荒々しく、素人の仕事だと伺える。神父が書を読み、生きとし生ける者がなんとやらと、涙ぐむ人に対して説教を行う。彼らは互いに慰め合うと、少年と老女を残して去っていった。やがて教会の鐘楼から直接ドレイクの耳に、身体を貫く重たい振動が三度伝わった。  カラスは墓地を抜け、やがて川と対岸に堤防が見えてくる。橋は二本かけられており、どちらも見張りはいない。堤防を越えると木組みと漆喰で塗り固められた家々が見えてくる。それは村というよりも街と呼ぶべき規模で、川と並行する二本の通りによって分けられている。それらの通りは村の中央に位置する円形の広場に直結しており、合計四本の通りが東西に延びていた。広場の前には二階建ての屋敷が建ち、中には人影が見える。  減速し、高度を落としていく。村には雪が積もっている。しかし足跡はほとんどなかった。外に出ている者もなく、ただ雪が降り積もっているだけだった。村は途切れ、南の堤防を越える。そして川を越え、広大な森が広がるのが見えた。旋回し川の水面を飛ぶ。北側同様、二本の橋が架けられているのが分かった。使い魔は光の粒子となり消えていく。 「予想以上に人通りが少ない。隊を三つに再編し、小規模にするんだ。二つは北方の橋を封鎖、残る一つは村へと侵攻する。日没と同時に出発だ」  オーガは頷き、立ち上がる。ドレイクは降り積もった雪を固く握りしめた。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!