わりにあわない:踊る

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 緩やかにカーブした道を抜けると、建物の影から灰色の広場が見えてくる。そこは円形の広場であり、唯一雪が少ない場所だった。  中央で巨大な炎が赤々と滾っている。巨大な木組みが焼け崩れ、火の粉が舞い上がる。崩れた木組みの間から、真っ黒な手脚が大量に見て取れた。 「今日は30体余りを焼きました。人間も、竜人も、獣人も、レプリカントも、エントも、コボルドも、ゴブリンもみんなみんな焼きました。特にレプリカントは燃えにくい分、最悪ですよ」 「人族、蛮族関係なく感染しているのか。レプリカントもというのは一体どういう仕組みなんだ」  レプリカントは無機質な肉体を持った、人形のような種族だ。彼らがどこで生まれるのか、その一切が不明だ。現存する遺跡の壁画には人間や竜人と並んで、彼らも描かれていることから、人類史の物心着いたときから存在したのだろう。どの町、村にも一定数は存在するし、人族の文化圏で生活し、好意的であることからも人族の一種として受け入れられてきた。 「感染経路、治療法のどちらにおいても調査中です。判明しているのは初期症状の段階では、ただの風と同じく咳、鼻水、発熱であること。末期症状の段階ではリンゴ大の腫瘍、および皮膚色の変化がみられています。腫瘍ができた段階から命が助かった患者は今のところ存在しません。現状、最悪の空気感染を想定して動いていますが、接触、飛沫のどちらかでの感染も十分に考えられるでしょう。反対にダニやノミを媒介とした経路は薄いと考えています」  風が吹き、炎はますます強く燃え上がる。炎の勢いは収まるところを知らず、暖かいを通り越し、焼けるように熱かった。  ドレイクは火葬の脇を抜け、広場に面した二階建ての屋敷へと歩いていく。両開きの扉を引き開けると、強い吐き気に襲われた。  屋敷の中は暗く、順応前の目ではよく見えない。まず感じたのは汗ばむほどの熱気と、湿度だった。屋外で冷やされた指先が早くもべたつき始める。次に感じたのは、異臭だった。外の火葬の臭いではない。腐敗した痰や鼻水、膿の入り混じった臭気だ。勇者は思わず鼻を覆う。最後に認識したのは彼らの声だった。屋敷全体から聞こえるうめき声は老若男女種族問わずのようで、すべてが混ざり合い一つの不協和音を作り上げていた。
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