わりにあわなくとも:どんな

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 陽が暮れる。ドレイクは装備の最終チェックを行うオーガの背を叩いた。 「いいな。逃げようとする者は好きに逃がせ。不用意に傷つけるな」  オーガは片手を挙げる。そして巨大な彼の背丈ほどもある大刀を担ぎ、巨人族を中心とした二部隊の中心へと向かう。一方のドレイクは彼に背を向け、馬やタイガーなどの動物を使った高機動部隊を率いる。巨人族が退路の確保、ドレイクが剣となって村に切り込む。  森から巨人族が続々と姿を現す。ドレイクは彼らの隙間を縫って、先陣を切る。栗毛の馬が雪を跳ね上げる。青い月光の下、雪煙が舞い上がった。墓標を抜け、教会を過ぎる。鐘楼の鐘はピクリとも動かず、あの体を突き抜けるような低音を奏でることなくじっとしている。  やがて墓地を抜け、川の流れが聞こえてくる。蹄が土と雪を蹴る音から、木製の橋を激しく叩く音へと変わった。橋の先にも、堤防の上にも見張りはない。彼は勢いを落とすことなく、一気に村内に侵攻した。  静かだった。  予想した最低限の反撃はもちろん、人通りすら全くない。灯りがついている家そのものが少なく、廃村と同等と言ってもいいほどだ。数十軒もの家の前を通り過ぎたが、人の住む気配があったのは一軒だけだった。通りを抜け、円形の広場に出る。二階建ての屋敷は、その多くの窓に明かりが灯されており、人影も見て取れる。中の住人たちは襲撃者に気づいていないようで、時折くぐもった笑い声が外にまで聞こえてきた。ドレイクは率いてきた全員が集まるのを待って、馬から飛び降りた。そして屋敷のすべての出入り口を見張らせると、銃を抜き空に向かって空砲を放った。  談笑が止まった。そして二回の窓から、小太りした男の影が見えた。男は逆光の影の中で目を見開く。そしてドレイクがまっすぐ男の方を見ていると気づくと、慌ててカーテンを閉めた。  ドレイクは建物から誰も通すなと命じると、一人短剣を手に屋敷へと入っていく。中は暖房がしっかり効いており、外とは別世界のようだった。天井からは小型のシャンデリアが等間隔に吊り下げられ、廊下を隈なく明るく照らす。無数の扉と、プレートアーマーが並び、銀細工の装飾品が目立たないところで目についた。彼は素早く廊下を抜けると、目的の部屋がある二階へと駆けのぼった。
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