わりにあわなくとも:どんな

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 赤子を抱き、教会へ向かう。広い墓所に、竜人族の神父と金髪の少年がいた。彼らは一つの新しい墓標の前で佇んでいる。  少年に見覚えがあった。彼が村に来たその日、老女と共に葬式に参列し、最後まで残っていた少年だった。少年は墓標から雪を払う。そして赤くなった指先を外套の下ですり合わせる。ドレイクは彼らの傍らに立ち、無言で祈りを捧げた。それに習い、神父も改めて祈った。 「貴方の献身は聞き及んでいます」  ドレイクは目を開ける。神父は老齢だがドレイクよりも背は高く、ガッシリとしている。同じ人と龍の掛け合わせでありながら、人族の龍人族は龍に近く、蛮族のドレイクは人の見た目に近い。ドレイクは神父を見上げた。 「僕は当然のことをしたまでです」  少年は鼻を鳴らし、二人に背を向け墓標の間を歩き始めた。神父は牙を見せ、微笑む。 「誰もができることではありません。たとえ善い行いだと理解していても、他に誰も行わなければ躊躇ってしまうものです」  神父はドレイクを見ながらも、どこか遠くを見ているようだった。ドレイクは一度ブーツの先に視線を落とすと、神父の細い目を見据えた。 「神父様、僕はわずかでも感染の兆候があれば、程度の如何に関わらず隔離を強行してきました。理性では最善策だったと信じています。しかし今日初めて、感情が理性を押しつぶしそうになりました。僕が行っていることは、本当に善い行いなのでしょうか」  彼はドレイクの肩に手を乗せ、目線を合わせる。教会の正装である黒衣が雪に触れた。 「善い行いというのは立場によって変わる物です。貴方が他者を信じ、他者のためを思い選択した行動は、善い行いとなるのです。たとえそれが悪い結果を招こうとも、報酬を目当てに行った事でも、その時他者のために取った行動は、総じて貴方の糧となるでしょう」  ドレイクの口元が緩んだ。そして抱きかかえていた赤子に目をやる。 「もし、どんな願いでも叶う遺物というものが存在したら、なにを願いますか」  神父は雪の降る空を見上げる。 「そうですね。もし私なら、人族も蛮族も関係なく生きとし生ける者すべてが、他者のために思いやりを持てる世となることを願います」  ドレイクは、ぐずりだした赤子の頬を指先でくすぐる。 「一つ、僕のお願いを聞いていただいてもよろしいでしょうか――」
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