わりにあわない:過去を

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 数多くの銀製品が目立つ。部屋の一角に大きな銀製甲冑や、銀製のカイトシールドといった具合だ。そのどれもに精巧な銀細工が施され、実用と呼ぶには少々華美すぎた。 「病人は増加の一途をたどっています。やがては病人の増加も止まるでしょうが、そのころには廃村となる可能性もいよいよ現実味を帯びてきました」  勇者は甲冑の腰に下げられた片手剣を抜く。銀の刃を持つ直剣で柄から剣先まで継ぎ目がない。鍔には龍を模したであろう刻印が施され、暖炉の光を受け輝いていた。 「それほどまでに村は疲弊し、廃れつつあります。僕たちだっていつまでもとはいかない。惜しみない支援を行ってきましたが、村に来た当初より三割もの仲間が病に臥せ、命を落としました。治療法の開発、感染源の特定、この二点を解決しない限り、病魔は最後の一人まで狩り尽すでしょう」  ドレイクはカップを出し、銀の水差しから水を注ぐと、二人に勧めた。勇者は剣を戻す。 「僕が村に来た頃には、すでに物流がとまっていました。村人よりも外部の者のほうが、村の異常にいち早く感づいたようです。村人らは平時と変わらない生活を営んでおり、茶葉は真っ先に底をついたと聞いています」  水は冷たく、透き通っている。カップの水面に浮かぶ彼女の顔は、いびつに歪んで見えていた。 「茶葉は無くとも耐えられますが、食料、医薬品の不足は手痛いものでした。ただでさえ危機的状況でありながら、慢性的な空腹による苛立ち、医薬品の無い不安感は、体力的にも精神的にも村人を追い込んでいます。唯一の幸運は、村が外界から離れた位置にあることです。それゆえ封じ込めも容易でした」 「取り急ぎ、不足している物は食料と医薬品か」 「人手も、です」 「それならば、力になろう。私にできることがあるなら言ってくれ」  勇者は目を丸くした。エルフの視線は一切ぶれることもなく、ドレイクを見据えている。エルフという種は誰彼構わず救済を与えたがるものだった。根拠はないがエルフ族の行う救済行動は、よく評判となっていた。エルフ族とはいえ、蛮族嫌いなのだと思っていたこともあり、受けた衝撃は計り知れないものだった。  彼女は目的を忘れるなと、たしなめようとして思い直す。代わりにため息をつくと、話の続きを促した。
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