わりにあわない:過去を

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「お願いしたいのは、残された村人たちの慰問と生命の保証です」 「それだけでいいのか?」  エルフは目を丸くし、上ずった声で尋ねた。ドレイクはまだ雪の降りやまぬ窓辺にもたれつつ、両の手の指先を合わせながら答える。 「えぇ、それだけで大丈夫です。ついでに村の様子も見て回れるので、あなた方にも意義のある提案だと思っていますよ」 「どうだ、勇者。お得じゃないか?」 「いや、私は……」  勇者は無意識に目頭を押さえる。乾燥しきった瞳を、滲みでた涙が潤いをもたらす。 「あぁ、わかりました。正式な依頼でないからダメなのでしょう。それでしたら、金貨100枚でいかがですかね。いや、紫ランク以上なら足りなさそうですね」  ドレイクは合わせた指先の人差し指で下唇に触れながら、俯き、どこかを一点見つめる。やがて顔をあげると、指を組んだ。 「金貨150枚をお出ししましょう。加えて、その剣を差し上げましょう」  視線だけで、甲冑の片手剣を示す。思いがけない気前の良さに、さすがの勇者もドレイクを見つめて瞬きをする。華美な装飾はどれも美しく、売れば金貨100枚にはなるだろう。実用とするにはいささか、今のままでは不安ではあるが腕のいい職人に頼めば、彼女のやや手荒な扱いにも耐えうる物となるはずだ。銀製というだけで一部蛮族に対し、強力な武器となる。アンデッド系列、例えばレヴェナントや、スケルトン、デュラハンなどに加え、ワ―ウルフなどに絶大なダメージを与えることができる。それゆえに銀製の武具は装飾品としてだけでなく、機能面で見ても有用な装備となっていた。  彼は先ほど勇者が興味を示したことを、きっちりと見ていたようだった。現に今、二本ある勇者の剣はどちらも銀製ではない。つい先日まで所持していたのだが、成り行きで壊してしまったのだった。 「いいだろう。引き受けよう」  ドレイクは目を細めて微笑んだ。彼は勇者という人種を理解しているつもりかもしれないが、実際のところ上手く扱っていると感じる。 「前金として銀の剣を先にお持ちください。金貨150枚は依頼完了時にお渡しいたしますよ」  エルフが鋭く抗議の視線を送るが、彼女は気にしなかった。
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