わりにあわない:過去を

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 古びた革袋の中に入れた食器の破片が、大きな音を立てる。そして倒れた家具を元に戻し、散乱した衣類を片づけていく。少年と老婆の二人暮らしにしては服の量が多かった。老婆が着るには少々派手目の服や、少年が着るには大きめのシャツなどだ。少年の両親の物だろうと、すぐに見当がついた。だが、ドレイクからは少年は二人で暮らしていたと聞かされている。思うに、つい最近両親を失ったばかりなのだろう。まるで二人が少し出かけているだけかのように、すべて残されていた。  片づけ終えるまで優に二、三時間掛かった。その間少年はずっとベッドに潜り込んだままで、時折音を立てずに体勢を変えていた。少年の様子を見ると同時に一息入れようと寝室に来たとき、部屋の一画に茶色い鞘に収まった剣が掛けられているのに気づいた。それは塗装の剥げた木製の鞘に収まり、無数にある傷や、染みや汚れなどが酷くこびりついている。 「その剣に近づくな!」  眉間に皺をよせ、口を歪めている。顔は赤く紅潮しており、手を強く握りしめていた。  彼女は両手の平を見せつつも、すぐに動けるように構えながら下がる。少年は荒々しく足音を立てながらも剣を取ると、鼻を鳴らしてベッドへと戻っていく。勇者はゆっくりと手を下ろす。そして慎重にかつ、わざと足音を立てながら、ベッド脇の椅子に腰かけた。  彼女に背を向け剣を抱きしめたまま、彼はシーツに包まった。雪の降る音が聞こえる。 「その剣、お父さんのか?」  彼女なりにも慎重に選んだ言葉だった。雪の降る音に混ざって、火の粉が弾ける音がした。 「……うん」  彼女は肘置きに肘を乗せ、両手を組んで身を乗り出す。 「お父さんは何をしていた人なんだ?」  詩人以上に慎重に、言葉の糸が切れないように紡ぎ出す。薪が崩れ、暖炉の炎が燃え上がった。 「親父は勇者だった」 「……そうか」  彼女は俯き、組んだ手に額を乗せる。炎が弱まり、露出した膝が異様に冷えた。 「立派な人だったんだな」  彼は何も言わなかった。外ではハーフリングたちが談笑しながら歩いていくのが見えた。 「よかったら、お父さんのこと聞かせてくれないか?」 「なんで初対面のお前なんかに」  彼はシーツを頭まで被った。彼女はため息をつくと顔をあげた。
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