わりにあわない:過去を

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「本は好きか?」  フレガイアの冒険、黒死龍物語、ノンデッドマン・ストーリーズ、魔導士大戦といった本が、小さな本棚にピッチリと詰まっている。多くが物語であり、中でも冒険小説が大半を占めている。これらの本は概要しか知らない。しかし心躍る冒険小説は、いつの時代も、どんな場所でも同じで、似たようなものならば彼女も幼いころによく読んでいた。 「トムソーヤやロビンソンクルーソー、ダレンシャンなんかはよく読んだ。ナルニア国物語やデルトラ・クエストなんかは好きだったな。三国志は好きになれんかったが、宝島や白鯨なら今でも覚えている」  少年は背を向けたまま、彼女の方を見る。 「ナルニア国物語なら聞いたことがある。あれ知ってるか? えっと、なんとか王物語」 「それだけじゃなんとも。何でもいいから、もう少し手がかりが欲しいな」  少年は宙を見つめ、独り呟きながら必死に思い出そうとしている。彼女は垂らした釣り糸に、少年が喰いついてくれたことに気づき、胸が軽くなった。 「馬がいて、騎士がいて、王がいてさ。何でも願いが叶うってやつ」  彼女は思わず笑いだす。 「そんな話ならいくらでもあるし、どれも現実にいるじゃないか」  少年は頬を膨らます。そして鼻を鳴らし、そっぽを向く。 「すまんすまん、そう怒るな。何でも願いが叶う話なら……。あー、わかったかも」 「ほんとに?」 「とは言っても、断片的にしか知らないんだけどな」  少年は起き上がり、ベッドの端に腰かける。彼は手を強く握り、話の続きを促した。 「転生者なら誰もが知ってるほど有名な話だ。こぞって勇者になりたがるのも、偏にこの物語の影響があるからだと思っている。その物語には馬がいて、騎士がいて、彼らを取りまとめていた王がいて。武芸に長けながらも騎士道精神に満ち溢れ、婦人には優しく。そして、何でも願いが叶うとされる遺物を追い求めた」  少年は目を輝かせて身を乗り出す。 「そう、そんな話! それはなんて名前なの?」 「それはだな」  わざともったいぶり、窓の外を見る。外は一面の銀世界だ。ちょうど話していた地も、こんな場所だったのかもと思った。  彼女はゆっくりと瞬きをし、目を輝かせている少年を見た。 「アーサー王物語だ」
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