23人が本棚に入れています
本棚に追加
/160ページ
ドレイクは自由になった両手を擦り合わせ、村へと戻る。竜人族の神父は子どもを預かってほしいという、頼みを快く引き受けてくれた。遥か頭上を、一羽のカラスが飛んでいる。灰色の雲の下、それは小さな点に見えた。彼は道中、橋を警備していた片腕のオーガを呼びよせる。
「万事問題はなさそうだな」
「問題だらけですよ、頭。こんな疫病、見たことも聞いたこともねぇ」
「僕もだ。治癒魔法を受け付けないとはどういうことなんだ」
雪は深く積もり、はっきりとした足跡が残る。オーガは両肩に載った雪を払い落とした。
「一緒にここまで来た連中もめっきり減っちまって。いまじゃ、看病する側からされる側になっちまっている」
ドレイクはオーガを見やる。四角く皺だらけの顔がわずかに歪む。ドレイクは彼から目を背けた。橋を抜け、村の門を一人で警護するトロールに片手を挙げる。
「北側の警護にあてる人数を減らし、病人の看護を行わせる。半数に減らした場合、どの程度支障が出るか」
「半数は減らしすぎですぜ。ただでさえ辛うじて警護できてる程度だってのに、これ以上減らしたら警護していないのと変わらなくなっちまう」
「北側堤防上の哨戒は減らせるのではないか。無くした場合、何人捻出できる?」
「コボルドとゴブリンの合計で20人。これには交代要員の数も含まれてますよ。しかし警備としていかがなものかと」
門を抜けるとすぐに切妻屋根の家並みが広がっている。彼はつい先ほど赤ん坊を取り上げた家を見つけ、思わず下唇を噛んだ。
「幸いにもこの村は天然の要塞となっている。せっかくの地の利を利用しない手はないだろう」
「そらぁ、そうですが」
オーガは頭を掻く。そして眉をひそめて、斜め上に目線を向ける。
「戦術的観点から見て、かなり危険ですぜ。監視の目の穴は文字通り、盲点ですからね」
「本当に無くしてしまう訳ではないさ。だが現状削減の余地はありそうだ」
ドレイクは親指と人差し指であごに触れる。
「10人でどうだ。加えて南側から4人北側に回す」
「なるほど。それならば許容範囲内でしょうな」
オーガは指を折り曲げながら答える。ドレイクは外套の下に手を戻すと、ため息をついた。
「早速手配してくれ。すぐにでも人手がいる」
「承知しやした。でも、なんでここまで人族に肩入れするんで? 蛮族と人族は絶対敵でしょうに」
ドレイクは目を細めて微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!