わりにあわなくとも:未来を

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 積もった雪に音が吸われるのか、静かな夜だった。大きな炎が動かぬ体を焼き、魂を夜空へと送り届けていく。煙は空へと昇っていき、空からは雪が舞い落ちる。  ドレイクは炎を見上げ、煙によって痛んだ眼を抑えた。命を落とした者はあの世で第二の人生を全うするとも、別人になって生まれ変わるとも、人によって様々な解釈がある。どの説が真実かはわからないが、ここでは苦しんだ分、次は幸せになってほしいと願った。  オーガは早速10人のコボルドとゴブリンをよこしてきた。いつ終わるとも知れない戦いに、精神的、肉体的にも疲弊しており、彼らの士気は極めて低かった。それでもドレイクは、一部を巡回に、一部を屋敷の手伝いの指示をだす。彼らは頷くだけで一言も発することはなかった。彼らの足取りは非常に重い。ドレイクは各自の作業場所へと向かう彼らの姿を黙って見送ることしかできなかった。  彼は炎の傍で腰を下ろす。高い体力を持つ種族とはいえ、目元には隈ができつつあった。炎は大きく、身を焼くほどに熱を放っている。一方で彼の背後に黒い影も落とし、影は長く引き伸ばされ闇夜の中に溶け込んでいた。  蛮族の長となるべく産まれ、育てられたかつての彼にとって、他者は自身の手足であり、重要な資源だった。ましてや人族などはそれ以下の存在で、死んで当然の滅ぼすべき種族たちだった。それが今では彼自らの意思で、かつての滅ぼすべき種族たちを救おうとしている。片腕のオーガと出会ったのも、ドライアドと知り合ったのも、あの日あの時、あの勇者に出会ったからだ。  その勇者は言った。一つだけ何でも願いが叶うのなら、俺は叶えたい願いがある。と。  ドレイクは笑った。それも腹が捩れるほどに。あまりにも真剣で、崇高な願いだった。  遠くで鐘の音が騒々しく響いている。いつの間にか眠っていたらしい。彼は溜まった涙を拭い立ち上がる。炎はまだ大きく、長時間眠っていたわけではなさそうだ。通りを走ってきたゴブリンが、息を切らせながらドレイクに叫ぶ。 「頭! 敵襲です!」  ぼやけていた頭が急速にハッキリし始める。鐘の音は北の教会の物だ。彼は翼膜を広げると、夜空へと一気に飛び立った。
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