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その儚さ、花火に劣るとも
花火と言う奴は、一瞬の内に烈しく咲き、儚く散って消えていく。だからこそ美しいのだと彼女は――火の神は語った。
故も知らぬ程古い神社の境内。夜空の明滅を見上げたその山吹色の瞳を爛々と輝かせ、同様の艶やかな髪を振り乱し、朗々と力説する。人の作り給うた娯楽の中でも、最たるものだと。
僕も空を見つめて、頷いた。刹那の煌めきこそが人の生だと信じていたからだ。
彼女は柔らかそうな頬を膨らませ、問うた。
――それなら何故、然様につまらぬ顔をしている。
分からなくなったからだ。刹那的な楽を、果たしてどのように享受していたのか、それを忘れてしまったからだ。花火を見に来たのは、何かが分かるかと思ったからだ。何も分からなかったのは、無論花火のせいでも、花火師のせいでもない。それだけは確かだったが。
彼女は呆れたように溜め息を吐いて、トントンと形の良い指で胸を叩いた。
――お主、それはな。分からなくなったのではないよ。お主の頭ではないところが、勘違いに気付いたのさ。人が花火になれるものか。
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