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「え?」
バスさんの声が遠ざかった。
恐る恐る目を開ける。
彼はベッドから離れ、こちらに背を向けていた。
「私はモニクさんに指一本触れるつもりはありません」
「どうして?」
「気になりますか? でも安心してください。
何も、モニクさんに魅力を感じないからではない。
私は……少なくとも私個人は、人間と対等の存在でありたいからです。
私は淫魔と人間の共存する社会を目指しています。
多くの淫魔たちにとって人間は捕食対象でしかない。
あなたたちで言うところの牛や鳥、言ってしまえば家畜です。
私はそれを良しとしません。
だから私は、モニクさんを堕とさない」
「清廉……なんですね。
淫魔なのに」
「本来なら、神に仕える身のあなたこそが清廉であるべきだ」
「う……」
「責めるつもりはありませんよ。
性は、生き物が持つ一面なのですから。
何なら全て私の仕業という事にでもしておいてください。
どこまで行っても、たとえ清廉であろうとも、私は淫魔なのですから。
それではそろそろ失礼します」
「あの!」
ワタシが声をかけると、バスさんはドアノブをひねる手を止めた。
「結局、バスさんは何をしに来たんですか……?」
「モニクさんが私に恋をしてしまった事。
私は淫魔であり、シスターのあなたとは関われない存在である事。
そして、私は人間と対等でありたい。
勿論モニクさんともね。
これらをお伝えするためです」
「それじゃあ、もう会えないのですか……?」
「明日になれば分かりますよ。
それでは改めて失礼します。
モニクさん」
「……はい」
「良い夢を」
バスさんの笑顔を最後に、ワタシは深い眠りへと戻った。
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