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「……朝だ」
当然、部屋にバスさんはいなかった。
ワタシはベッドから降りる。
引き出しの一番下を開け、中の物を取り出した。
小さな時計の付いた皮の腕輪。
貴族の間で流行っている最新の携帯時計、腕時計だ。
こうして眺めてる間にも、秒針がせわしなく時を刻んでいる。
「どんな仕組みになってるんだろう?」
気になるけど、あまりベタベタ触ってはいけない。
これはワタシの私物ではないから。
昨日バスさんが去って行った後、花壇の中に落ちていた。
誰かに盗まれないようにと家まで持ち帰ったのだ。
これはきっとバスさんが落としたに違いない。
彼が来る前はこんな物無かったし。
もしかしたら、彼はこの腕時計を探していたのかも。
言ってくれれば普通に教えたんだけどね。
「むしろワタシから言いだすべきだったのでは……?」
仕方ないよモニク。
あの時は気が動転していて頭が空っぽだったんだもの。
とにかく、バスさんはこれを探しているに違いない。
孤児院に持って行って、彼が現れたら返そう。
腕時計を握りしめ、ワタシは部屋を後にした。
いつものように支度をして孤児院に向かう。
「おはようモニク」
「お父様。
おはようございます」
「今朝は普段より遅かったね」
「寝付きが悪かったもので」
「そうなのか。
何か悪い夢でも見たのかな?」
「えっ?」
「……モニク?」
「あ、何でもありませんよ。
心配ご無用です」
「それならいいんだが。
あ、そうそう。
お客さんが来ているんだ。
モニクに会いたいそうだよ」
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