プロローグ

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 驚きのあまり、危うくジョウロを落としてしまいそうになる。  孤児院に備品を買うようなお金の余裕はない。  落として割りでもしたら大変だ。 「だってー、モニクも女の子でしょー?」 「女の子でしょー?」 「男の子じゃないでしょー?」 「いやいや、だって。  赤ちゃんを産むって事はその、つまり……。  ワタシが、ワタシが男の人と……でしょ。  そんなの絶対、ぜーったいあり得ませんっ!」 「どうしてー?」 「ねえ、どうしてー?」 「仮に話したとしても、あなたたちお花には分からないでしょうね。  人間とは違って、風や虫が花粉を運んでくれるのだから。  全く。  冗談もほどほどにしなさい」 「きゃー!」  ワタシは残りの水をぶちまけてお花を沈黙させた。  余計なお世話だ。  ワタシはもう二度と恋なんかしないと決めたのだから。  シスターになったのはそのためでもある。 「キレイな、お花ですね」 「え?」  後ろに誰かいる。  今の声、少なくともお父様じゃない。  優しくて落ち着いた感じの男性の声だ。 「ああ、すみません。  後ろから突然声をかけたりして。  驚かせてしまいましたか?」 「いえ……」  恐る恐る振り向いた。  さっきの声の主であろう誰かが立っている。  やっぱり男性だった。  シワひとつない立派な灰色のスーツ。  貧民街であるここには似つかわしくない格好だ。
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