プロローグ

3/8
前へ
/39ページ
次へ
 驚きのあまり、危うくジョウロを落としてしまいそうになる。  孤児院に備品を買うようなお金の余裕はない。  落として割りでもしたら大変だ。 「だってー、モニクも女の子でしょー?」 「女の子でしょー?」 「男の子じゃないでしょー?」 「いやいや、だって。  赤ちゃんを産むって事はその、つまり……。  ワタシが、ワタシが男の人と……でしょ。  そんなの絶対、ぜーったいあり得ませんっ!」 「どうしてー?」 「ねえ、どうしてー?」 「仮に話したとしても、あなたたちお花には分からないでしょうね。  人間とは違って、風や虫が花粉を運んでくれるのだから。  全く。  冗談もほどほどにしなさい」 「きゃー!」  ワタシは残りの水をぶちまけてお花を沈黙させた。  余計なお世話だ。  ワタシはもう二度と恋なんかしないと決めたのだから。  シスターになったのはそのためでもある。 「キレイな、お花ですね」 「え?」  後ろに誰かいる。  今の声、少なくともお父様じゃない。  優しくて落ち着いた感じの男性の声だ。 「ああ、すみません。  後ろから突然声をかけたりして。  驚かせてしまいましたか?」 「いえ……」  恐る恐る振り向いた。  さっきの声の主であろう誰かが立っている。  やっぱり男性だった。  シワひとつない立派な灰色のスーツ。  貧民街であるここには似つかわしくない格好だ。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加