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バスさんは花壇の前、ワタシの横にしゃがみ込んだ。
キレイなそのスーツが土で汚れないか心配になる。
「実は、よく分かりません。
この辺りに自生していた花を花壇で増やしただけなんです。
喋る花なんて珍しかったものですから。
ワタシは単に『お花』って呼んでいますね」
「そうなんですか。
まあ、この地域一帯は昔から貧民街ですからね。
植物学者なと居ようはずもない」
「食べられるか食べられないかくらいですよ。
ここの住民が気にしているのは」
「何とも痛ましいお話だ……。
モニクさんもさぞかしご苦労なさっておられる事でしょう」
「えっ? そんなつもりで言ったんじゃなかったんです。
ご気分を害してしまってすみません」
「謝る必要はありませんよ」
「そう、ですか……」
それにしても緊張する。
お父様や子どもたち以外の男性と話すなんてどれくらいぶりだろう。
しかもふたりきりで。
当然だけど緊張するってだけで、変な気持ちなんか微塵もありはしない。
何しろ、ワタシは神に仕える身なのだから。
「あの、モニクさん」
「はっ、はい!?」
「このお花たち、売り物ではない……ですよね?」
「えまあ、ワタシが趣味で育てているだけなので……」
「ご迷惑でなければ、1輪譲っていただきたいのですが。
妹が喜びそうなので。
いかがでしょうか?」
「うーん……」
「勿論タダでとは言いませんよ」
「そんな、お金をいただくなんてできません。
花屋でもあるまいし」
「おや、そうですか。
ではこの孤児院への寄付、というのは?」
「ご寄付ですか。
それなら構いません。
というか大歓迎です。
けど」
「けど?」
「ワタシはともかくお花たち自身がどう思うか……」
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