プロローグ

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「ありがとうございます。  ええと、手頃な鉢などがあれば助かるのですが。  その分だけ寄付も出しますので」 「ちょっと待っていてください。  すぐに持ってきますから」 「お願いします」  ワタシは孤児院の裏側を目指して小走りした。  園芸用品がそこにまとめて置いてあるからだ。  土を掘り返すためのスコップや、バスさんの求める小鉢もある。  同じ趣味の仲間ができたみたいで少し嬉しかった。  でも……あくまで趣味仲間。  男であっても女であっても、性別なんか関係ないのだ。  強いて言うなら同性の方が話しやすかったかな。 「うーん、これはダメ。  ヒビが入ってる。  こんなの人様に渡せない。  別のにしよう」  そういえば、バスさんはこの貧民街に何の用があるんだろう。  第一、あんなにキレイな身なりだとスリにでも遭いかねない。  喋る花のウワサを聞いて来たのかな。  あり得なくはないけど。  あとで聞いてみよう。 「よし、これだ」  ワタシは一番マシな小鉢とスコップを持った。  バスさんを待たせないよう急ぎ足で花壇に戻る。 「バスさ、ん……」 「ねえバス聞いてよぉ。  今日のお客さんちょっぴり乱暴でさぁ。  髪掴んで無理やりくわえさせられちゃったぁ。  ヒック」  バスさんは、女に抱きつかれていた。  背中の大きく開いたやましいドレスの女だ。  シスターのワタシとは対極に位置する女。  絶対に妹なんかじゃない。  見るからに娼婦だ。  何せここは貧民街。  あんなのが1人や2人いても全然おかしくはない。  問題は、そいつがバスさんに馴れ馴れしく抱きついている事だ。  しかもバスさんがイヤがる様子はない。  むしろ彼女を優しく撫でて、なだめてすらいる。
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