(一)枕元で

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「ボク。お父さんにもチュウをしてくれるか」  妻に対抗して声をかけてみた。 「ボクちゃん。パパにもしてあげる?」 息子が大きく頷いて「うん!」と答えてくれたというのに、「でもだめね。パパはタバコくさいものね」  と言う。さらに、「タバコくさいの、嫌いだもんね」と付け足した。 「うん。たばこ、きらい!」  妻の家来なのか、息子は。いとも簡単に前言を翻す。まるでオーム返しだ。 “男が一度口にしたことは、絶対守らなければいけないんだぞ” 危うく出かかった言葉を、喉まで出かかった言葉を、すんでの所で呑み込んだ。結婚前に約束したことを守っていないのだ。なにを言われるか、分かったものではない。  それにしても、妻とのキスはいつ終わったのか。初めてのそれは、二度目のデートだった。妻を送り届けたときだった。車から降りようとする妻に軽く触れる程度のキスをした。顔を真っ赤にして「バカ」と言い残して降りた。そして次のデートからは、必ず別れのキスを繰り返した。結婚の約束を取り交わした夜に、初めて熱いキスを、いやベーゼをした。
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