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「美希って、もしかしてネガティブな性格?」
「分相応って言葉を知っているだけよ」
「じゃ、さ」
上坂は、私の正面に立つと、まっすぐに私の顔を見つめた。
「俺たち、一緒にいたらちょうどいいじゃん。俺、すっごいポジティブな人だから!」
「どうやらそのようね」
もともと軽い奴だとは思っていたけど、今日話してみてその確信をさらに深めたわ。
そんな私の思考に気づくはずもなく、上坂はうきうきと続けた。
「でしょ? ね、つきあっていいってことは、俺たちもう恋人同士だよね。今度はキスしても頭突きしない?」
「好きでもない人と、キスなんてするもんじゃないわ」
「俺、美希の事好きだよ?」
「好きって言葉も、そんな軽々しく言うものじゃない」
「好゛~ぎ~」
「重々しく言ってもだめ」
言いながら、ついに私も笑いだしてしまった。ああ言えばこう言う……ホント、懲りない奴。
「なんだ、やっぱり笑えばかわいいじゃん」
「お世辞言っても、何も出ないわよ。あんたこそ、少しはその緩い顔、引き締めたら?」
「だって、こんなにかわいい彼女ができたら、嬉しくて笑えちゃうでしょ?」
社交辞令だとわかっていても、かわいいなんて言われるとそれなりに気分は浮かれてしまう。
でも。
「約束。つきあうのは一週間だけよ」
「一週間? せめて一ヶ月くらいはつきあおうよ」
「そんなに時間はいらないと思うけど」
「でもほら、短すぎてもわからないだろうから。……あの月が、もう一度丸くなるまで」
言いながら上坂が指さした先を見れば、そこには中空に昇ろうとするまんまるな月があった。
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