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「……ら、おーい、梶原!」
自分が呼ばれていることに気づいて、私は没頭していた本の世界から急速に浮上する。
もうすぐ午後の授業が始まろうとする昼休みの教室は、まだ半分くらいしか生徒がいなかった。
ずれためがねをかけ直しながら振り向くと、教室の後ろの方から男子が呼んでいる。
「何よ、仁田」
「お前に、客―」
「客?」
誰だろ。
仁田の位置からして、どうやら廊下に私を呼びだした奴がいるらしい。
私は、本にしおりを挟むと立ちあがった。
ち、クライマックスのいいところだったのに。
「誰?」
聞いても仁田は素知らぬ顔をして、答えない。教室の中にいる女子達も、やけにこちらを気にしてソワソワしてる。不思議に思いながら廊下を覗くと、そこに立っていたのは背の高い男子生徒だった。
どうみても染めている茶髪(校則で染髪は禁止されているんだけど)に、耳にはピアス穴(校則で装飾品は禁止されているから穴だけだったけど)。シャツのボタンを開けているせいで、ネクタイがゆるく首にぶら下がっている。ブレザーの前は開け放して、その袖は両方ともまくり上げられていた。そんなふざけた格好なのに、すべてがプラスに向くという美青年。
同じ三年生の、上坂蓮だった。有名人だから名前と顔は知ってるけど、個人的に話をしたことはあまりない。私を呼びだしたのがコレとは思えず、とっさにあたりを見回してしまった。
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