軽い男と図書館デート

2/21
前へ
/342ページ
次へ
「……ら、おーい、梶原!」  自分が呼ばれていることに気づいて、私は没頭していた本の世界から急速に浮上する。  もうすぐ午後の授業が始まろうとする昼休みの教室は、まだ半分くらいしか生徒がいなかった。  ずれためがねをかけ直しながら振り向くと、教室の後ろの方から男子が呼んでいる。 「何よ、仁田」 「お前に、客―」 「客?」  誰だろ。  仁田の位置からして、どうやら廊下に私を呼びだした奴がいるらしい。  私は、本にしおりを挟むと立ちあがった。  ち、クライマックスのいいところだったのに。 「誰?」  聞いても仁田は素知らぬ顔をして、答えない。教室の中にいる女子達も、やけにこちらを気にしてソワソワしてる。不思議に思いながら廊下を覗くと、そこに立っていたのは背の高い男子生徒だった。  どうみても染めている茶髪(校則で染髪は禁止されているんだけど)に、耳にはピアス穴(校則で装飾品は禁止されているから穴だけだったけど)。シャツのボタンを開けているせいで、ネクタイがゆるく首にぶら下がっている。ブレザーの前は開け放して、その袖は両方ともまくり上げられていた。そんなふざけた格好なのに、すべてがプラスに向くという美青年。  同じ三年生の、上坂蓮だった。有名人だから名前と顔は知ってるけど、個人的に話をしたことはあまりない。私を呼びだしたのがコレとは思えず、とっさにあたりを見回してしまった。
/342ページ

最初のコメントを投稿しよう!

116人が本棚に入れています
本棚に追加