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「用意するものなんてないよ。梶原さんだけいてくれれば」
「はあ」
「じゃ、放課後迎えに来るから。一緒に帰ろ。またね」
そう言って、まだ楽しそうに笑いながら手を振って帰っていった。
わからんやつだな。
「お前、蓮と知り合い?」
様子を見ていたらしい仁田が、後ろから聞いてきた。
「ううん」
「じゃ、なんで告られてんの?」
「は?」
予想外の言葉に、思わずその顔を見返す。
「何言ってんの?」
「え? 今、お前告られてたんじゃないの?」
「そんなわけないでしょ。何聞いてたのよ」
「お前こそ、何言ってんだよ。デートの約束してただろう?」
「ご期待に沿えなくて申し訳ないけど、勘違いもいいとこだわ」
すると、なぜか仁田はにやにやと笑いながら言った。
「まあ、そうだろうな。お前みたいな真面目ながり勉、蓮には似合わないしなあ」
悪気はなさそうな言い方だったけど、無意識に渋面になる。
確かに、私と上坂じゃ、あまりにも世界が違いすぎる。常に彼女はとっかえひっかえ、風紀ぎりぎりまで制服を着崩して、休日平日を問わず渋谷あたりでよく見かけるという噂を持つような男と、よりによって私が接点を持つとは思っていなかった。
「……それはその通りだけど、真面目なつもりもがり勉なつもりもないから、正面切って言われるとむかつくわ」
「わりいわりい」
全然悪いとは思っていなそうな顔で、仁田が一つに縛った私の長い髪を引っ張る。
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