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「ま、あいつが我に返ってお前がフラれたら、俺が慰めてやるからさ」
「必要ないわよ」
べい、とその手を払って、私は自分の席に戻る。それを待っていたように、午後の授業が始まる予鈴がなった。
ああ、これ、全部読んじゃいたかったのに。金曜日はただでさえ持って帰るものが多くて嫌だから、せめてこの本くらいは返して帰りたかった。
大きく息を吐いて、私はさっきまで読んでいた本をバックの中にしまった。
☆
「だからさ、俺の彼女になって、ってこと」
「………………は?」
思わず、持っていたカップを落としそうになった。
二人でコーヒーを買って席について、しばらく雑談なんかしたところで、こいつはとんでもない爆弾発言を落としてくれた。
「……寝言?」
「ちゃんと起きてるってば。梶原さん、彼氏とかいるの?」
「いないけど」
「じゃ、いいじゃん。ね、俺とつきあってよ」
つきあってって……ホントに、そういう意味だったのか。
「あんたさ、うちの学年じゃ一番モテるんでしょ?」
「ちっちっち」
わざとらしく人差し指を私の目の前で揺らして、上坂は言った。
「うちの学年じゃなくて、うちの学校で一番モテるの」
「なら、わざわざ私なんかとつきあわなくたって、他にいくらでも可愛い子がいるじゃない」
「梶原さんも、十分可愛いよ?」
「用事がそれだけなら、私、もう帰るから」
私は、飲み終わったカップを持つと席を立った。あわてて上坂も立ち上がる。
「送るよ。梶原さん、家、どこなの?」
「川中町」
「え? じゃ、駅と反対方向じゃん」
そうよ。あんたが相談があるなんて言うから、わざわざ家と反対方向の駅まで出張ってきたのよ。
そうは思うけど、それを口に出すほど性格は悪くない。
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