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「ねえ、もう一回笑ってよ」
「楽しいこともないのに、笑ったりできないわ」
「ならさ」
とん、と、上坂が軽く私の肩をついた。ふらついた私は、そのまま、道沿いの塀に背を押し付けられる。
「何を……」
どん。
その状態で上坂を見上げた私の顔の横に、やつが手をついた。
……あー、これ、知ってる。あれだ。
壁ドンってやつ。
「俺とつきあったら、楽しいよ。梶原さんの知らない、気持ちいいこと、いっぱいしてあげる」
「……私なんかの、何がいいの?」
「何言ってんの。梶原さん……いや、美希って呼んでいい? 美希は、素敵だよ」
少しだけ顔を傾けて、上坂が私に顔を近づけてきた。
「美希…………ぐあっ!!」
膝をまげて体を落とした私は、かがんでいた上坂の顎に、思い切り頭突きをかましてやった。のけぞった上坂は、その場にどすんとしりもちをつく。
「ってえええ……」
「許可もなく女性に触れようとするとこうなるの。覚えておいて」
殴り返されても仕方がない覚悟でやったけど、上坂はあごをさすりながら、けたけたと笑い出した。
「すげえな、美希って。気に入った」
「この状況で気に入られても、あまり嬉しくないわね」
私は路上に放り出されたバッグを拾って、立ち上がった上坂に彼のカバンを渡した。
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