軽い男と図書館デート

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「うち、すぐそこだから。送ってくれてありがと」 「いやいや、もう暗いから。女の子ひとりじゃ危ないって」 「こんなかわいげのない女、襲う物好きなんていないわよ」 「じゃ、俺、物好きなんだ」  上坂は、何事もなかったように私の横に並んで歩きだした。その様子があまりにも自然だったので、私は、謝る機会を失ってしまった。 「……そうね。がり勉だの真面目だのはよく言われるけど、私のこと女の子扱いする人なんて、上坂くらいのものよ」 「ええー? そうかな。美希って、可愛い……つか、綺麗だと思うよ」 「上坂、目悪いの?」 「両目とも、二.〇」 「勉強もしないくせに学年十位以内ってむかつく」 「むしろ勉強するときだけめがねです。遠視だから近くの字がきつい」 「ご年配の方だったんですね」 「ほほほ、若輩者よ、敬いなさい」  気色悪い笑い声をたてながら、上坂は私の顔を覗き込んだ。 「嘘じゃないよ」 「何が?」 「美希が綺麗って事。みんな知らないんだよ」  ぐ、と一瞬言葉につまる。  よく臆面もなくそんな台詞をはけるものだわ。 「なるほど。いつも、そうやって女子を口説いてんのね」 「んー、あんまり自分から口説くことってないかな。何もしなくても、たいていは向こうから寄ってくるし」  うわー、さらっと言ったよ、このチャラ男。 「なら、そういう人とつきあっとけばいいじゃない」 「えー? そんなに俺とつきあうの、嫌?」 「……いいわよ」 「ん?」 「つきあっても」 「マジ?!」  それを聞いた上坂は、ぱ、と花が開くように満面の笑顔になった。私は、表情を変えないまま続ける。 「そうね。だいたい一週間もあれば、私がどれだけつまんない人間かわかると思うし」  すると今度は、困ったように眉をひそめた。ころころと表情は変わるけれど、もとがいいとどんな顔でも似合うのね。
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