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「いらっしゃいませ」
静かな、本当に気にならないくらいの柔らかい控え目な声に招き入れられて、俺は気分が上昇するのが分かった。そうだ、Bar Utopiaはこう言う店だった。そのまま、癖でカウンター席を通り過ぎ、数年前まで定位置だったボックス席に向かう。
「……失礼」
案の定、そこには、先客が居て、俺の顔を見ると、困惑した視線を投げて来た。失礼を詫び、踵を返し掛け、思い至って、空いている方の席に尻を滑らせる。
「少し、お邪魔するよ」
「……お兄さん、初顔だね」
体格の良い片割れが、もっと体格の良い相手の腕から腕を抜きながら微笑い掛けて来た。コレは外れ、だ。尻軽はお呼びじゃない。だが、この席に座ったのには、別の目的が有った。近くを通った黒服を呼び止めて、ドリンクを三つ頼む。
「初めてでは無いけれど、ここに来るのは、久し振りなんだ。誰がフリーで、誰がフリーじゃないか、分からなくてね」
「ふうん。ボクもフリーと言えばフリーだけど……」
睫毛を揺らしながら答えられても、そそられないな、と思う。そもそも、体格の良い子は余り好みじゃない。どちらかと言うと、中肉中背が好みで、触っていて気持ちの良い子までが許容範囲だ。
「おい! 今日は、俺に付き合うと、言ってただろう?」
隣の男が俺と相手とを睨みながら、口角泡を飛ばす。ああ、五月蝿い男はもっと好みじゃない。失敗したかもしれない。
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