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「分かってるって。さっきのは、冗談だってば。機嫌直して」
「全く。本当に、シノブはキレイ系に弱いな」
「ごめんってば。今日は、イヤってほど、サービスするよ」
目の前で繰り広げられる痴話喧嘩に、嫌気が差した所で飲み物が運ばれて来る。チップを適当に渡すと、一瞬戸惑った様子の黒服は、けれど、直ぐに優雅に手の中に仕舞い、極丁寧に俺達の前にグラスを三つ置いた。うん、黒服の教育も行き届いている。相変わらず、良い店だ。
「もしかして、奢ってくれるの?」
訝しげな声に、にこり、と努めて笑顔を深く浮かべる。俺の顔は、大きく変化を示さないと、威圧的に映る事があると分かっているからだ。
「良ければ、どうぞ」
「ラッキー」
相手は好意的に受け取ってくれたらしい。一先ず安堵する。
「ああ、美味しい。ただ酒だと余計に」
言うが早いか、グラスを半分程空け、にっこり笑うその姿に、やはり、無いな、と思う。酒は飲める方が楽しめるが、多少の遠慮は必要だし、大酒飲みは、好みじゃない。
「君も、是非、どうぞ」
「ありがたく」
堅苦しい台詞に笑いそうになる。体格に見合った話し方をする、武士のような子だ。面白い、とは思うが、残念ながら、こちらも、好みじゃない。
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