第三章 ミスターパーフェクトの恋

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 その時、彼が身体を震わせて、もう一人を振り返る。ぼそぼそ、と何かを二人で喋った後、こちらを向いた彼は、ちらと俺を見上げた後、こくん、といとけなく頷いた。その、仕草が、堪らなかった。何とか言葉を絞り出す。 「良かった。俺の事は、ケイと呼んで」 「は、はい……」  そう言うと、彼は俯いてしまう。染めていないだろう髪が、併せて、さらり、と揺れる。どうかしている、と思われるかもしれないが、その、髪に手を入れて、くしゃくしゃに乱してしまいたい、と俺は思っていた。いけない、こんな場所で考える事じゃない。 「何を、飲んでいるの?」  何か話題を、と思い、問い掛ける。喉が酷く渇いていた。彼は、グラスの中身を飲み干すと、口を開いた。 「ウィスキーの水割り」  鼻に掛かった声は、やっぱり、好みだな、と思う。丁度良いタイミングで寄って来たバーテンダーに、声を掛ける。 「ふうん。ああ、彼と同じ物を、ダブルで」 「かしこまりました」  静かに注文を受けたバーテンダーは、やはり静かに俺の注文の酒を入れ始める。バーテンダーにも教育が行き届いていて、本当に良い店だな、と頭の片隅で思った。だが、それ以上に、隣の彼の事が気になった。彼の意識が俺に有るのは確かなのに、視線が全く合わない。その事に、俺は焦れ始めていた。何が、彼をこんな風に頑なにしているのか。  コトン、と静かにグラスが目の前に置かれる。意識を戻され、俺はバーテンダーに目線だけで礼を言う。今日の俺は、何処かおかしいかもしれない。冷静さを取り戻さねば、と思いつつ、グラスに口を付ける。アルコールは柔らかく喉を通って行った。
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