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ナンパ青年二人は海の蹴り一発で伸びた。
高らかに舞った海の右脚は、百七十五センチある自身の身長を軽々と越える。
癖の無い細い髪を揺らしながら、海の脚がナンパ青年Aの顔面を真正面から蹴り飛ばすと、約三メートル離れた栞の方へナンパ青年Aの身体を転がした。
ナンパ青年Aは勿論気絶。
Bは、Aのくたばってる姿に度肝を抜かれながらも海の姿を二度見して、栞の手を汚いものを離すときみたいにぱっと離し、天佑を求めるかのように一目散で橋を越えて行った。
「お、覚えてろよぉー!」なんて捨て台詞を吐いたかどうかは、ご想像におまかせするとしよう。
「大丈夫?怪我は?」
海が栞に歩み寄り話しかける。
「大丈夫だよ。ちょっと手首が痛いだけ」
「そっか…。怪我がなくて何よりだ。女子って大変な」
「そんなことないよ。今日はたまたま運が悪かっただけだよ。それより和泉くんは?怪我してない?」
「ん…」なんて言いながら、海は自身の身体を見回し、準備運動するときみたく右足首をぷらぷらさせると、栞の頭にぽん、って手を置いて笑った。
「心配すんな。怪我しててもお前の所為じゃねーから」
栞の頭に手をのせるとき少し屈んだ所為であろう。
海の首に掛かる十字架のクルスが、ゆらゆらと左右に揺れていた。
「…」
俯き、照れている。
栞の頬が茹で上がったかのように赤かった。
「んじゃ行くか。遅刻する」
栞が照れているとこのなど歯牙にも掛けず、海はとことこ歩き出す。
優しさが滲み出ている凛とした瞳、男のくせに柔らかそうな唇に白い肌、前髪を隠すくらいのストレートな黒髪が風に靡く、肩幅の広い引き締まった身体に似合わない九頭身はありそうな長い脚、Yシャツの間から覗くクルスが、海にはよく似合う。
なんだ。
このイケメン野郎。
「待ってよ!頭撫でるのは狡いー!」
何言っているのやら。
でも女の子の髪って、なんであんないい匂いするんだろうなぁー。
栞が海の隣に並ぶと、シャンプーの匂いが海の鼻をくすぐった。
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