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くるみが電柱の陰から出てきたのは、海と栞が橋を渡りきった後のことだ。
二人の背中がどんどん遠ざかって行く。
密着する海と栞の距離に異常なほどの嫌悪感を抱きながらも、くるみにはその後を追うことはできなかった。
ただただ見つめ続ける。
心音がばくばくと煩い。
あと、なんかむかつく。
「なんで怒ってんだろ…。私」
海とくるみが出会ったのは、二人がまだ小学三年生のときだった
転校してきたくるみに一番初めに話し掛けてきたのが、当時も明るく優しかった海である。
一方のくるみはふれあいを忌避する相変わらずさで、話し掛けてくれる海を幾度となく無視し続けた。
でも、海は決して諦めなかった。
くるみが笑って話をするようになるまで。
周りの男子が、「和泉お前ぇー、椿のこと好きなんだろぉーっ!」なんて茶化してきたこともあった。
それを教室のど真ん中で、しかも殆どの生徒が居る前で喝破するものだから、海は平気でもくるみの精神はもたなかった。
顔を真っ赤にして直ぐに教室を飛び出してしまう。
その度に、海は同級生にでこぴんを食らわせていた。
くるみが初めて海の問に返しをくれたとき、血が滲むような努力が報われた気がしたほど僥倖を海は味わった。
そのきっかけが、一冊の本であったことは、海とくるみは今でも覚えているだろう。
徐々にくるみは笑うようになり、顔を隠していた前髪をばっさり切った。
クラスメイトの目の色が変わり、まず初めに女子達が騒ぎ立てる。
たかだか前髪を切ったくらいで厳禁な奴らだ。ってのが、海の正直な意見だったが、くるみが前髪一つで変わったのは誰が見てもわかる。
けれども、くるみは寄ってくる女子とは話せずもじもじしていて、海が来ないと一言も喋らなかった。
だから、今までの苦労を水の泡にしたくなかった海は、仕方なく女子の会話に交ざった。
勿論そんなことをすれば、周りの男子が黙っていない。
「和泉お前ぇー、全部好きなんだろぉーっ!!」
どういう神経なんだ、こいつ。
気づけばくるみの席には多くの人が集まるようになった。
くるみの可愛さに気づき始め恋をする男子も居た。
もう一人でも大丈夫だと思えた。
でも、なんだろう。
なんか、むかつく。
それは海が初めて経験した「嫉妬」だったのかもしれない。
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