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三年二組の中は鷹揚としていて、朝から大声をあげる奴など居なければ、小学生のように走り回る奴など論外、居るわけがない。
夏が終わり九月の下旬ともなると、窓から入る風が冷たくも感じられる。
次は冬休みだと休みに期待を膨らませて目を輝かせている生徒も居れば、学期末のテストが近いからとテンションを下げる生徒も居た。
その中で、くるみだけが可笑しい。
机と机の間にできた通路に仁王立ちし、肩に掛けたスクールバッグを自らの席に起きもしないで、黒板を背にして今にも泣きそうな顔で下唇を噛む。
で、楽しそうに話をしている三人の女子生徒を見つめている。
嫌、睨み付けていた。
普通ならもの凄く簡単なこと。
くるみならではの悩みだ。
大体一週間に一回くらいのペースで、くるみはクラスの人気者である三人組、「リサ、アヤ、クミ」との会話を試みている。
毎回意を決して、なんて雰囲気を醸し出しているくせに、三人組の会話に交ざれたことはない。
というか、おはようの一言すら言えたことがないのだ。
今日は月曜日。
あぁ、ちょうど今日で一週間か。
前回のチャレンジから。
「ねぇー。知ってる?この学校の変な噂…」
話を切り出したのはお調子者のクミだ。
「何なに?どんな噂?」
興味を示したリサは成績優秀な女の子。
「怪奇現象らしいんだけどね」
クミが楽しそうに話始める。
「えぇー。やめようよ、そういうの…」
なんて言いながら実は嫌ではない天の邪鬼なアヤが身体を前にのり出した。
「良く怪奇現象が起きるポイントが三つあるんだけどね。一つは屋上、もう一つは校門らしいの…。で、もう一つはどこだと思う?」
「うーん。理科室とか?」
「ぶぅー!」
「じゃあ音楽室!」
「それもぶっぶぅー!」
クミ以外の二人が面白くなさそうに、冬眠前の栗鼠みたく頬を膨らませた。
「じゃあどこなのよ!」
三人組の会話が黒板からゆっくり離れるくるみに届く。
一歩、二歩と。
小さく、徐々に。
まずは挨拶だ、それが基本。
けれども挨拶をする前に、くるみの小さな声が三人組に届くところまで近づかなくてはいけない。
二メートルまで行けるか。
嫌、一メートル。
ううん。
やっぱり三メートルでいこう。
良し、ここだ。
「それはね…」
「おはっ…」
「「「!?」」」
「へぇっ!?」
「えっ!?」
「…今、なんか言った?」
「…ううん。こっちからなんか」
三人が三人してくるみが居た方向へ視線を向けたが、既に彼女の姿はない。
ほんの五、六秒前まですぐ側に居たのに、たった二文字発声しただけで猛ダッシュで逃げる。
お前は一体何がしたいんだ。
「…誰も居ない」
リサが眉をしかめた。
「で?…最後の一つって?どこなのよ?」
アヤが頬杖を付きながら呆れ顔をクミに向けた。
けれども、クミは青ざめた顔で決して最後の一つを教えようとはしなかった。
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