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 二時間目。  英語の授業には出席した。  日本の学校で英語を教えるのが夢だったと語る新米の外国人教師が、慣れない日本語と英語を巧みに使い授業を進めていく。  英語はどちらかといえば余り得意な科目ではなかったが、将来のため、英語を話せないと困る日が来るだろうと、くるみはノートにペンを走らせた。  三時間。  体育の授業は男女で別れたバレーボールだった。  女子は男子の試合を見てきゃーきゃー言ってるし、男子は男子で女子の試合を見て鼻の下を伸ばす。  女子が黄色い声援を上げる男子も、男子がでれでれ卑猥な目で見る女子も、クラスの中では大半決まっている。  このクラスでは海と栞がその餌食となるのだ。  四時間目。  古文の授業は正直子守唄にしか聞こえない。  前の授業が体育だったこともあり、現代の文字と昔のくねくねした文字を睨めば睨むほど、朗読されれば朗読されるほど、くるみの意識はどこか遠くへ飛んでいきそうだった。  昼休みは大体一人で過ごす。  女子といえば作ったお弁当の持参、ってのが、いつの間にか当たり前なカテゴリーに追加されてしまっていて、クラスの殆どの女子が手作り弁当を毎日持参した。 「このおかずめっちゃ美味しそう!」とか、「盛り付け可愛いねぇー!」なんて本当にそんなこと思っているのかもわからない根も葉もない会話を繰り広げながら、女子達はグループに別れて机を囲った。  よく毎日そんなことをしてストレスやプレッシャーにならないものだと、くるみはいつも渋い顔で教室を出る。    僻みとかではなく。  嫌、ちょっとは僻んでるかも。  昼休みの定番は屋上で大好きなパックのコーヒー牛乳を飲みながら読書をすること。  なのだが、今日は読みかけの恋愛小説を家に忘れてきてしまった。  クライマックスでもの凄く良いところ、続きが気になって仕方がないのに。 「あの主人公はどっちのヒロインを選ぶんだろ…」  フェンスの向こうを眺めながら、パックに突き刺したストローをくわえてぼそっと呟く。  その時、屋上の出入口から微かな足音と誰かの話し声が聞こえてくる。  この聴力の良さと人が来たらすぐ隠れてしまうこの癖。  もしかして前世は兎だったのでは、なんて最近本気で思い始めたところだ。  くるみはペントハウスの裏へ逃げるように隠れた。            
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