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「...和泉くん」 触れていたボールペンをゆっくり置いた平川は、俯きがちにデスクの上で両肘を付き、組んだ手を口元辺りで固定した。 ゆっくりと、話し出す。 「事件を起こす犯人が、何故銃を持つと思う?」 「...」 「拳銃という、人を簡単に殺める画期的な道具を、人質に向けていれば刑事や機動隊を優位に操れる。...得に、ジャックや誘拐、監禁に強盗、殺人を考えてる者も稀に拳銃を握る...」 海がゆっくりと顔を上げる。 その目にはまだ、明晰に怒りが見えた。 「撃つつもりはない...ただの護身用、何かあった時に仕方なく使って、人質をほんとに殺そうなんて思ってない。持ってるだけで犯罪がより一層簡単に、楽になるからだ...」 「なに、言って...」 重たい声。 妙に説得力のある平川の言葉に、海の表情から怒りが消えていく。 逆に、今度は平川の眉間に皺が寄る。 「思ってなくても、撃つんだ...人間ってのは...」 「だ、だから...」 ばんっ!! 海が何か言おうとしたのを、平川はデスクを力強く叩き言動を止める。 海は怪訝そうに平川を見つめた。 「焦り、動揺、不安、物事が上手くいかない怒り、犯罪のリスクを理解してない犯人が追い詰められた状況に置かれると、拳銃という凶器の恐ろしさも知らないで、自分を勝手に強いと勘違いして拳銃の引き金に手をかけるんだっ!...かけたら最後、撃つんだよ...」 「...平川さん?」 不安そうな東城の呼びかけに答えず、平川は話しを続ける。 歯を食いしばる平川の目が真っ直ぐに海を睨んだ。 「どんなに...強くても、どんなに、格闘技を経験してても...どれだけ身体を鍛えようと、漫画の世界みたいにはいかないのなんかわかるだろ...無茶なんだ。...絶対的な凶器を持った犯罪者には、勝てない...」 平川が何を言いたいのか。 東城は咀嚼した。 だから。 「君のしたことは駄々の自殺行為だっ!!君があの子をっ!!...」 「平川警部!!!」 咄嗟に止めた。 その先の、残酷な言葉を。 今の海に、言ってはいけない。 平川も気付いたのだろう。 東城の覇気のある声に、平川は言葉を飲み込んだ。 「それ以上...言わないでください。言ったら、だめです...」 部下の涙。 「...すまん」 ...そう、か。 俺が...くるみを。 海の瞳から。 また、生気が消えていた。
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