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ーー君があの子をっ!!
...あの刑事、あの後何を言おうとしたんだ?
あの子、、くるみか...
...君、、俺か。
俺が、くるみを...
殺した。
頭がおかしくなりそうになるのを、海は堪えながら帰路に着いた。
帰路というよりは、くるみが緊急搬送された病院に里美とタクシーを使って向かっていたのだが、頭の中で平川の言葉が何度も木霊する。
ーー君があの子をっ!!!
...くそ。
ちかちかと、タクシーはハザードランプを付けて病院の入口前に停車した。
「2600円です」そう言ったタクシーの運転手が心許ない様子で後ろを向く。
「あ、、はい...」
里美がバックから財布を取り出す。
いつもなら降りる近くに来たら財布を鞄から出しておくのに、今はそんな気遣いすら出来ず、あたふたと財布からお金を取り出すのに手間取っているように見えた。
後部座席、左側のドアがゆっくりと自動で開く。
くるみが心配なはず。
海がタクシーから飛び出すんじゃないかと里美は心配だった。
けれど。
海はお金を払い終わっても降りようとはしなかった。
「...海ちゃん?着いたよ?」
「...あぁ、、」
「...」
「ご乗車ありがとうございました。お忘れ物などございませんように...」
タクシーの運転手がそう言って漸く外に出る。
冷たい風。
考えが纏まらない。
纏まらないのに。
海が、思い出したかのように突如走り出す。
病院を見て。
くるみの存在を、唐突に思い出したのだろう。
「海ちゃん!」
駆け出した海を追うよりも先に呼んだ。
追いたい気持ちはあるのに里美の足が思ったように前へ進まない。
遠ざかる海の背中。
いつも大きいその背中は。
今はずっと。
ずっと小さく見えた。
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