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「手術は勿論成功です。ですが、くるみさんの額を掠めた銃弾は、思ったよりも激しく彼女の脳を損傷していて...生きているのが奇跡に近い。...長いこと医者をしていますが、難しい脳の手術に耐えれるくるみさんの体力も相当なものです。手術中に亡くなっていても何ら不思議じゃない、それだけの...命を落とすかもしれない、大きな、頭部へのダメージなんです...」
担当医はここまで一気に話すと、溜息にも似た深呼吸をしてから、英と柚に視線を戻す。
くるみの父と母。
両方とも、喋ることができなくなっていた。
くるみの妹。
くこは、眠っているくるみの身体に顔を埋め、ひくひくと肩を震わせて静かに泣いている。
誰も、海の存在に気付いていない。
「目は...さ、覚ますん、ですよね?」
「...」
担当医は無言で少し下を向いた。
数秒の沈黙のあと。
担当医は英に視線を戻す。
「分かりません...この状態が、どれくらい、続くのか」
「...そんな」
「この子...まだ、まだ十四歳ですよっ!これからもっといっぱい楽しいことが待ってる!大変なことも、悲しいこともいっぱいいっぱい乗り越えて成長していくんです!色んなことを学んで、沢山悩んで...沢山、沢山...」
柚がぽろぱろ涙を流しながら担当医に縋り付く。
娘を返して。
そう、言われてるような気がしてならない柚の声が、担当医を心からから苦しめる。
「ご冥福を...お祈り、申し上げます」
その言葉を最後に、「失礼します」そう言って担当医は深々とお辞儀をすると、二人の横を通り過ぎる。
「ちょっと待ってくださいっ!!」
英が担当医を止めようと踵を返したのも。
刹那。
立ち尽くす海を、見つけてしまう。
「和泉、くん...」
「...」
何も言えない。
ーー君がしたことはただの自殺行為だっ!!...君があの子をっ!!!
平川の言葉が。
海の全身を、硬直させた。
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