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現在十七歳のくるみは、自宅から徒歩三十分ほどのところにある進学校に通う高校三年生。
男子が十人居るとする。
この中で、くるみを可愛いと判断するのはおそらく八割は固い。
つまり、要するに、可愛いのだ。
そのくせスタイルはほどよいモデル体型。
黙っていても男子が勝手に自己アピールを始めても可笑しくはない。
しかし、くるみの性格は本人が困憊してしまうほど厄介だった。
愛想が良い、なんて言葉がわからない。人見知りを絵に描いたお手本のような人間で、見ず知らずの相手との会話など皆無、できるわけがない。
だからこそ先程のやり取りは自分でも不思議だった。
相手は人間ではないけれど。
猫だけど。
勉強はそこそこできてスポーツは点で駄目。
中学時代にやっていた弓道は、的を射貫くなんて一切できず退部。
あの時はそれなりの理由があったものの、退部したのは覆しようがない事実だった。
ボーリングをやらせようものなら投球ほぼ全てガーター。確かアベレージは五と、とんでもない記録を叩き出すお手前だ。
逆に、全投球で五本だけ倒す方が難しいと思う。
内気、消極的、恥ずかしがり。
自分の意見を言うなんて天地がひっくり返らない限り言わないだろうし、挨拶だってそもそも危うい。
社会人としてなら本物のゴミだ。
で、今のところ、その性格に改善の余地はない。
小さい頃から花や動物が大好きだった。人との会話は家族と、本当に気を許した友達、知人としかしないくせに、家で飼っている熱帯魚やベランダで育てている観葉植物には煩いくらい喋りかける。
仕舞いには愚痴なんか溢したりしちゃって、正直友達にしたいとは思われない。
その性格を直さない限り。
化粧っけのないピンク色の下唇を噛み、しなやかな黒髪をちょっと爆発させながら、猫との会話で赤くした頬をそのまま、くるみは珍しく悔しそうにスカートを押さえたままぼそっと呟いた。
「最低…」
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