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3
海に両親はいない。
三月の寒空の下。
雨が幾度となく降り続けた夜、最愛の父と母は交通事故で死んだ。
なんでも酔っぱらいが赤信号を無視して横断してたのを、避けようとしてガードレールに突っ込んだらしい。
十年前。
当時の海には意味のわからないことだった。
どうして。
どうして父さんと母さんが死ななきゃならないの?
悪いのは、赤信号を無視してたその酔っぱらいなのに。
七年。
人生の中では短いその時間の中で海は沢山の愛情をもらい、教わった。
その中で、海が三歳から父に教わっていたもの。
それが。
空手だった。
弱き者を助け強き者に立ち向かう、自分の弱さを知り精進を怠らないこと。
それが、父の口癖だった。
海が小学生に上がる頃、小中学生を交えた大きな大会が開催された。
六歳から十五歳までが参加できる、年齢層が幅広い大会。
勿論年齢差は配慮されており、近い歳の子供達が熾烈な戦いを繰り広げた。
この日初めて、和泉海の名が空手界に旋律を運ぶこととなる。
小学生の優勝者、そして中学生の優勝者が、最後に対決する方針となっていたのだ。
誰も六歳と十四歳というとんでもない年齢差の戦いなど予想していなかっただろう。
海は、意図も簡単に勝ってしまった。
誰が見ても圧勝だった。
空手の天才。
その大会から半年後。
海の両親はこの世を去る。
有名になるななんてのが無理な話だった。
両親が交通事故で他界した後も、海は空手を辞めなかった。
父の言葉を信じ抜いた。
弱き者を助け強き者に立ち向かい、精進を怠らず毎日稽古をこなした。
その結果。
中学生に上がる頃には高校生を圧倒し、道場の大人達にも引けを取らなかった。
正に天才。
だが、年に二回行われる全国大会。
海は四度目の優勝を果たすと大会に出場するのをぱたりと辞める。
出る意味が、ない。
そう言って。
それが、当時海は十四歳。
冬の出来事だった。
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