「先っちょだけ」が口癖の悪霊

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「唐揚げ揚げたてですよ」 除霊師だけでは生活できない。 今日もコンビニ店内に俺の、竿谷恭介(さおたにきょうすけ)の声が響く。 「唐揚げひとつくださーい! あと、先月の給料くださーい」 助手の玉袋美咲(たまぶくろみさき)が嫌がらせのように来店して俺の前に立つ。 「唐揚げお一つですね」 給料の部分は聞かなかった事にして、いつも通りのマニュアル対応で唐揚げを袋に詰めた。 「そう言えば、依頼の電話がありましたけど?」 玉袋は爪楊枝が刺さった唐揚げを早速口に入れ、ハフハフ言いながら話した。 早く出て行けと思いながらも、依頼内容が気になった俺は、話の続きをするよう視線で訴える。 「竿谷さんの専門分野の依頼だと思うんだけどなぁ……でも、店内で話しても迷惑っすよね! また明日にでもー」 S嬢に育てれば成功しそうな勿体つけた言い方をする玉袋。 「待て! 端的でいい。依頼内容を言ってから出て行け」 俺の言葉を聞いた玉袋はいやらしい笑みを浮かべ、内容を話し始めた。 「フフ、最初っからそう言えばいいんですよ。依頼者は大学二年の町村美佳(まちむらみか)さんです。依頼内容は、深夜2時になると決まって耳元で男の呟きが聞こえるとのこと……」 「内容は? よくありがちな『殺してやる』とか、『うらめしや』とかじゃねーだろうな」 「そんなザ・幽霊みたいなセリフじゃないっすよ。何でも、『先っちょだけ……先っちょだけ……』って言葉を3分くらい言い続けるみたいです」 出た。100パーセント変態悪霊だ。 「バイトが終わり次第事務所に戻る。玉袋はその依頼者の住所を車のナビにセットして待ってろ」 「もう終わってまーす。ちなみに車で40分くらいの距離でーす。じゃあ、ツムツムしながら待ってるんでー」 玉袋にしては準備がいいなと思いながら、俺は再び声を張る。 「コロッケ、揚げたてでーす」
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