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目が覚めた時、ベッドの感触がいつもと違うな、と感じた。マットレスが固い。それに枕カバーが自分の家の洗剤の香でもない。ほこりっぽいような、古い繊維のにおいがする。
恵里は瞼をこじあけるのに数分かけ、体中がごわごわとしているのをほぐすように伸びをして、やっと目を開けた。
暗い、と薄目で即座に判断した。
「まだ、朝じゃないのかしら?」
いつも小さなナツメ球をつけてねむるのが常であった。蛍のようなぽちっとした灯りが頭上にない。
「信之が消したのね」
夫にはいつも、小さい灯りはつけておいてとお願いしていたのに。
自分は怖がりだから。
怖がりだから、暗いのはダメなのだ、と体を起こし、はっとする。
ここ、家じゃない。
信之と二人でこつこつ貯めてやっと買った郊外のマンション。駅から近いだけがとりえで、窓からの眺望は抜群だが、視界には田畑と原生林しか入らない、それでも愛しいマイホーム。
その、マンションの寝室ではなかった。
「ええええええ」
ベッドから足をおろすとストッキングのつま先に床の冷たさが伝わる。ストッキングなんて履いて眠るわけはない。いつも素足だし。そうだっ! 恵里は思い出した。
「モデルハウスで眠ってしまったんだ」と。
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