モデルハウス

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「やだーこのお人形、おもらししてる」  巨人のような女の子の顔が恵里の目の前にあった。 「なにいっているの。早く選びなさい。今度はどのままごとセットにするの」 「はーい」  恵里の下腹部を握っていた女の子の手が離れた。恵里は身動きできない。どさっと投げ出された。下腹部が尿で生暖かった。 「エリちゃんはほんとうに、このおもちゃ好きね。毎年の誕生日に買っているのね」 「ママ、だってこれ本当のおうちみたいだよ」 「そうね。うちはアパートで、台所もこんなに豪華でないし。これは夢のおうちね」  恵里はじっとしたまま考える。  どうやらあたしは人形になってしまったらしい。  なぜかおしっこをしようとした瞬間に。  いや、これは夢に違いない。こんなことありえない。だってさっきまでは……  しかし、この女の子 誰かに似ている。恵里は思い出そうとする。  誰だ、だれだろう? 「あーそうだ。今日はおふろ場セットにしようかな?」  ミニチュアのバスタブと洗い場のあるしゃれたおもちゃだった。 「そうね。すてきなおふろね。ママもこんなおふろのある家ほしいな」 「ママ、あたしが大きくなったら本物のおふろ買ってあげる」  この子、あたしだ。  この子、昔のあたしだ。  じゃあ、あたしはどうしてコウナッチャタノ? 「ママ、このお人形どうする?」とわたしを女の子は指さす 「そうね、変なお人形ね。人形売り場はここでないし、服も、薄汚いし。おしりもしめっぽいし」 「誰か、子供が飽きてね、捨てていったのかも」 「そうね」  女の子の母親は人形の顔をみると首をかしげ、なぜだか捨てておくには後ろ髪ひかれると思ったのか 「かわいそうだから」とそばにあったおもちゃハウスのベッドにそっと寝かした。  白いベッドで、ピンクの布団が掛けてあった。てらてら光るナイロンの布団だった。  恵里には母娘がおもちゃのおふろ場セットをもって会計に向かっていくのが見えた。  ずっと向こうに眼鏡をかけた父親らしき人がたたずんでいる。  オトウサン、オカアサン……  恵里の目から涙がこぼれた。手も足も動かせないまま、これじゃだるまさんと同じだと思った。枕カバーがじっとりと湿るくらい泣き続けた。  泣き疲れそのうち眠ってしまった。  目が覚めた時……ベッドの感触がいつもと違うなと感じた。
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