惜しからざりし命さへ ②

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惜しからざりし命さへ ②

 母と八つの時にこの地に流れ着いた。父のことは微かにしか覚えていない。私の生まれたところは寒さが厳しくうんざりするのだと、故郷の話をするたびに母は吐き捨てるように呟いた。恐らく何らかの理由で父を失い、それがもとで追われるように所を払われたのだと、ひたすら憎憎しげに背中に覆いかぶさるように広がる生まれ故郷に呪詛を吐き歩く母の姿に、幼いながらになんとなく察したものだ。  母は気の強い人だった。四つの時に故郷を追われてからこの地に辿り着くまで、口に出すのは憚られるようなことを生業にして己の身と私を守っていたのだろう。そうした苦界を察せられないほどに母は苛烈で、自らにも他人にも厳しい人だった。そしてそれは、私とて例外ではなかった。     
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