プロローグ

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手についたソースをさり気なく舐めながら、バランスが崩壊しないよう器用にバンズの形を整える。勢いよく飛び出してしまったレタスをひょいとつまんで口に放り込むと、小休止とばかりにオレンジジュースを吸い込んだ。  レジ前にずらりと並ぶ焼きたてのマフィン。厨房でパテを焼く美味しそうな音が響き渡る店内は、お昼休みのOLたちで賑わう。しかしながら、お揃いのグレーの作業着姿で向かい合う私たち二人は、明らかに浮いている。 「お星様? 違うね。あれはブラックホールのような存在かな。うっかり遭遇すると生命エネルギーを吸い取られてしまうの。ぐったりしちゃうから、なるべく関わらないようにしてるんだけど、麦茶を飲むのに出てくるんだよね。その時だけわざわざ」 気がつけばこのカフェイチ押しの”贅沢仕立てクワトロチーズバーガー”は、最後の一口を残すのみとなっていた。少しふっくらした体型の彼女は、輪郭が優しく丸みを帯びているせいか、短めのボブが可愛くてよく似合う。躊躇(ちゅうちょ)なくパクリと放り込むと、怪訝(けげん)な顔をして口をつぐんだ。 「二十二にもなってニートでさ、十九で働いてる妹のスネ(かじ)るなんてね。ああやだやだ。(さや)が不憫だわ。ほったらかして、家出しちゃってさ。好きに生きたって罰は当たらないんじゃない?」     
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