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「それってさ。本当はずっと待っていたんじゃない? こういう機会を。でないとすんなり出てこないでしょ、そういう言葉って」
ロッカールームで打ち明けた昨夕の一部始終を、美樹はそう解釈した。
「だってさ。夕飯の買い出しや支度も、洗濯も、部屋の掃除やゴミ出しだって。全部鞘が面倒見てたんでしょ。部屋に籠って何もしなくて済むんなら、そりゃあ何もしなくなるわよ」
そういわれるまで、私は疑ったことが無かった。そうするのが当然だと。だって、兄だから。兄妹だから。わたしがどうにかしなければ、兄はこの世界から取り残される。群れから逸れる。死に急ぐ――。
「そうなったら私、絶対後悔するっておもったからさ。もう嫌だったんだ。家族がいなくなるのは」
その言葉が、美樹の鼓膜を打ったのかどうかは定かでない。彼女は少しだけ口元を歪ませつつ、ぼんやりと着替えをしながら淡々と呟いた。
「逆に、鞘がお兄さんを縛り付けていたのかもね。あの部屋に」
私は、最後の家族を失うことにした。そう、たったの百日間だけ。
”家族って何だろう”
知らないうちに、頭の中でずっとずっと昔から鳴り続けていた疑問。その答えに、少しでも近づけるのだろうか。くしゃくしゃになった怪しげなチラシを、私は静かに手に取った。
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