第一話「空気」

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 私もやられた。ケイちゃんを見ていると、一年前の私を見ているようで、胃がきりきり舞いする。  仕事は出来る。だが、とにかくドライでせっかち。そんな主任は、こっちが困っていてもとにかく聞ける雰囲気じゃないオーラを常に醸し出している。クレームや自分の荷受したものに問題が発生すると速やかに自己解決しなくてはならず、焦りが焦りを生んでパニックになること暫しであった。加えてテンパる私が目についたのか、”何やってんの? どいて! 私がやるから!”とお客さんの前で盛大にキレられることもたびたびあって、あの頃は仕事に行くのが憂鬱で仕方がなかった。 「あんなんだから独身こじらせるんだよ。ヒスばばあが」  事務所内での飲食は原則として禁止されているというのに、美樹は常に口の中に何かを転がしている。主任の目を盗むことにとにかく長けていて、忍者のように素早い身のこなしで机の下に忍ばせたスナック菓子を口に運ぶのを私は見た。  ひょうひょうとしていて、とにかくマイペース。美樹はいつもそんな感じだ。     
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