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プロローグ
アイスピック
の、ようなもの
こんな表現を、夕暮れ時のニュース番組やスマホのネットニュースでたまに見かける。
待てよ。アイスピックはアイスピックでしかないし、似たようなもの、形を想起させるものなど存在するのか?
薄暗がりのキッチンで、冷蔵庫の前に立つ兄。閑かに佇む覇気の無い背中を、極限まで研ぎ澄まされた鋭利な視線で睨みながら。ふとそんな妄想に浸ってしまっていた。
そう、今まさに突き立てたかったのだ。この背中に。の、ようなものではなく。
「ついにさ。刺してしまったのだよ」
「ん? なになに?」
トマト、ピクルスに肉厚のパテ。零れ落ちそうなほど蕩けたチェダーチーズ。全てを貫くピックをひょいと引っこ抜き、包み紙に包む。大きな目を輝かせながら大口を開けて噛り付く美樹が、話半分といった感じで聞き返す。
「あの忌々しい背中にさ、アイスピックを。そしたら背中に小さな穴が空いて、怒涛のように空気が漏れて。兄は窓を突き破って飛んでいってしまったわけよ」
「お星様になってしまわれたわけね」
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