春色

3/3
前へ
/33ページ
次へ
そうこうしているうちに、五月蝿いのが出ていって、周囲はそこそこ静けさを取り戻す。 その中で、何度か反芻したフレーズを繰り返す。 もう1年も前になるのか、と。 これ以上傷付くことなんて、ないと思いたい。 こんなことになるのなら。 有り得ないことだけれど、それが分かっていたとしたら。 絶対。絶対にあの日、キラキラしたガラスケースを幸せの象徴のようにみなしたりしなかったのに。 今となってはただただ、灰のようだ。 消し炭となったただの石ころだ。 それらは最早、後悔の瓦礫でしかないのだ。 そうして故意に、ぐしゃぐしゃに踏み潰された枯れ葉は、その遺骸を風に撒き散らした。 そして、春がきた。 いやでも、季節は過ぎるのだ。 淡い水色やラベンダーの、花を象ったレースのスカートと、ビジューの煌めくトップス。 デニムジャケットと、一部がシースルーになっている黒いパンプス。 ペールブルーに、白い花のプリントが可憐なハンドバッグ。 ふわりと季節に馴染んでも、脳内は1年前の冬に囚われている。 透明に輝く鉱石。 そこに不純物なんてあるはずがなかった。 許されなかった。 そう、信じていたあの頃。 もう、あんなもの要らない。 あれは、裏切りの象徴だ。 この世で一番穢れた、偽りの光だ。 もう二度と、信じない。 きっといつか、信じたフリをしても。 美しい鉱石には目に見えないヒビが入ってしまうのだろう。 そして、それは一生消せることはないのだろう。 もう、二度と。 あの透明度の向こう側に、春はない。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加