換羽期の低温火傷は厄介

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私たちはみんな変わった。 とかいう空想にも似た現実が唐突に浮かぶ。 スケジュール帳やお薬手帳ケース、ペットボトルの飲み物やらをつめこんだカバンはやたらと重い。 いつも待ち合わせは近くのモールか、20分くらいのファミレス。 今日はファミレスの方。 住宅街から大通りに出るのに、4回程右左折を繰り返す。 2台前に警察車両がいるからいつもより安全運転を意識。 途中、ガソリンを入れなければいけないことを思いだし、スタンドに寄る。 諭吉が機械に吸い込まれ、精算機からは6千円が全て英世で返ってきた。 ほんの少し厚みを増した財布を重たいカバンにしまい、再度車を走らせた。 道中、前の彼氏といったフクロウカフェを探す。 結局見つからなかったけど。 なんとなく感傷的な気分になってみたり。 走りながらいろんなことを考えた。 仕事のこと、今日の予定のこと、夕飯のこと、仕事のこと、色々。 厄介なことに、うつだなんて肩書きがついてしまっているこの不完全体で 人並みに仕事することは不可能に近い。 早く結婚して扶養に入りたい。本音。 別に、今の彼氏にそれだけを求めているわけではないし、それだけのために結婚したいわけでもないけれど。 正直、限界が近いのだ。 少し気を抜いたら発狂してしまいそうな不安定さ。 そりゃ、もっともっと大変な人なんていくらでもいるし、特別自分が不幸だとも思わない。 自分を可哀想だと思えたら、楽になれるのだろうか。 だとしたら、そういう人たちがちょっとだけ羨ましい。 いろんな人のことが、羨ましくて、自分はこんなにもダメで不完全で、惨めな思いが日に日に増していくようだ。 愛に夢を見ていたのはいつだったか。 愛が永遠だとしたら、この苦しみはいつまで続くのだろうか。 終わらせるのには、死ぬしかないのか。 そんなのは、幻想かもしれない。 だけどすべて白昼夢で終わらせるには、リアルすぎる痛みだった。 今、こうして一友人とお茶の約束をしていることも、どこか現実味がないように思えてきてしまえるくらいには。 そんなこと考えたって、目的地には着くし、友達も少し遅れて駐車場に軽のワゴンを滑り込ませる。 1ヶ月以内に会っていても「久しぶりな感じがするね」と笑い合って、店内に入る。 胃腸の調子が悪いから、雑炊を頼む。 ドリンクバーは温かい紅茶をチョイス。 平日の昼前だというのに徐々に混んでいく店内。 仕事や家庭の話。 くだらない話から、聞いて欲しい愚痴まで。 友達は結婚していて、相手の両親と同居しているから、そういう類いのストレスも多いのだ。 それから、また別の友達の結婚式の話題。 その子は中学から付き合っている彼氏と入籍済み。 その彼は、一時期は定職についていない時期もあったみたいだけど、今は落ち着いたらしい。 また別の子は、19歳年上のオジサンと付き合っていたり、まぁ私達仲良しグループもだいぶ変わったな。 そういう私の今カレは、オジサンと付き合っている子の元カレだ。 笑えない。 刻々と形を変えつつも、一定の場所に収まって続いている関係は、きっとこれからも大事にした方がいいものだ。 このグループは、時々すごく気を遣うこともあるし、疲れることもあるけれど、大学を卒業してもたまに会って遊びたいと思えること自体、貴重なことなのではないかと思う。 あれやこれや話しているうちに、いい時間になる。 テーブルで適当に割り勘して、小銭がピッタリになったのでちょっと気分が良かった。 次は、たぶん結婚式の時。 仲良しグループ4人揃って素敵な結婚式の写真を撮ろう。 その会場には元カレも来るらしく憂鬱だけど、それ以上にお色直しのドレスの色の方が気になる。 女とは、そういう生き物なのだ。 罅割れしにくいだけだって、ダイヤは欲しい。 例のフクロウカフェは、帰り道ではあっさりと見つかった。 同じ道を通っているのに不思議なことだ。 今日は彼の家に泊まることにした。 夕飯は唐揚げにしようかな、なんて考えながら中途半端な時間に予約したクリニックへ向かった。
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