ミルクティー

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アップルパイ風味の茶葉を、お茶パックに入れて熱いお湯を注ぐ。 濃く淹れた紅茶にミルクを注げば簡単に淡いブラウンに染まる。 ひとりの早朝、ぼんやりとテレビを眺めながらマグカップを両手で包み込み、体を暖める。 ニュースは新型ウイルスに関する話題を淡々と流していく。 カーテンから差し込む光が徐々に明かりを増して、あと少し。 あと少しかな、と何度も待ちわびる。 今でもふとした時に、あの日のことを思い出す。 「傷付かないで」 と、震えていた 慣れない体温と匂い。 初めてそれらに触れた夜は、1年以上経った今でも鮮明に心に刻まれて、時々ぶわりと蘇っては、頭の中を満たしていく。 それはくすぐったいような、痛いような。 どうしようもなく切なくて、だけど不思議と心地よい感覚だ。 言葉ではうまく、あらわせないものだ。 私はひとつも後悔などしていなかった。 あの夜、私は心の深いところで、彼に救われたのだ。 いや、もっとずっとずっと前から、彼には助けてもらってばかりだった。 あぁ。 本当に、良かったなぁと。 この人で。 ミルクティーが、すっかり冷たくなった頃、スマホが震えた。 仕事が終わって帰ると、彼からの連絡。 もうすぐ会える。 嬉しくなって、残りのミルクティーを飲み干した。 砂糖の入っていないそれが、なんだか甘く感じた気がした。
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