《 番外編 》 初めての……

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ーー「樹里」 それに、昔はこんなに低い声じゃなかった。 女の子みたいだって、周りの男の子にも女の子にもからかわれて『じゅりちゃん……』って情けない声を出してメソメソ泣いていたのが、私の中での幼馴染みの "ひろみ" だったんだ。 ーー「おい、樹里……寝てんのか?」 そして中学生になってからの広海は、今までの口調とはうって変わって……男らしいと言えば聞こえはいいけどそんなんじゃなくて、何だかわざと乱暴な言葉遣いをするようになった。 この頃の広海は、背は伸びたけどまだ女の子に近いような中性的な姿だったから、その乱暴な口調は当時の私にとっては違和感でしかなかった。広海が段々と私と美桜に距離を置いている事もなんとなく感じていて、私からは広海に話し掛ける事もできなくなってしまっていた。 ーー「仕方ないな」 美桜と決別してから、私たちはまた幼馴染みに戻れたけれど、私に対する乱暴な口調は変わらなかった。 だから、こんな風に私が酔っ払って、居酒屋の中でウトウトしてるっていうこの状況で、広海が言いそうな言葉なんて長い付き合いなんだから、大体予想が付く。 『おい、起きろ。この酔っぱらいが』 なんて言われて叩き起こされるか、 『……めんどくせぇな。さっさと起きねぇと、捨ててくぞ』 とか言われて、置いてくどころか早々に捨てられそうになるかの、どちらかだ。
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