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ーー ピタリ。
ゆっくりと前に進めていた足を止めた。
「樹里……どうした?」
急に立ち止まった私に、戸惑ったような心配そうな口調で広海が話しかけてくる。
横からふっと顔を覗きこむような気配がした瞬間に、私も後ろを向いて広海の方へと向きを変えた。
そして私の身体は、振り向いた勢いのまま、抱き締められるように広海の胸にぽすん、と収まった。
「……広海……ありがと。迎えに来てくれて」
顔を見るのは恥ずかしいから、広海の胸に顔を埋めたままでお礼を言う。
情けないくらいに声は震えてしまったけれど、広海の耳にちゃんと届くように、精一杯声を張った。
私達は幼馴染みから恋人同士になれたけど、 "恋人" って、考えようによっては、幼馴染みよりもずいぶんと脆い繋がりだと思う。
美桜と決別してから、二人だけの幼馴染みになろうと約束をした。……それは、無条件に広海の側に居られた10年間だった。
もちろん、お互いを好きだったからこそ続いた関係だったとは思う。
だけど、今はちゃんと気持ちを言葉にして愛情を伝えていかないと広海の"恋人"にはなれないし、側に居続ける事はできないんだ。
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