4082人が本棚に入れています
本棚に追加
そのまま恵は仕事あがりの藤田くんとここで待ち合わせだと言ったので、慌てて帰り支度を始める。
「えー、何で?亮くんも樹里にありがとって言いたいって言ってたのに」
恵が藤田くんを名前で呼んでいることにすら落ち込んでしまう。こんな気持ちで会える訳がない。
「いいよ。お礼なら恵から今散々聞いたじゃん。もうお腹いっぱいだから帰るね!」
普通に会話してても二人が『付き合っている』ということを言葉の端々から嫌でも感じてしまう。
ほんとにお腹いっぱいだ。わざと茶化すように話しながら、ばいばいと手を振って歩き出す。
二人が一緒のとこなんて見たら……
あげく二人ハモって『ありがとう』なんて言われたら、間違いなく涙腺が崩壊するってば。
私も初めて会った時から好きだったんだけどな。
……亮くんのこと。
まぁ、こんな風にさらっと名前で呼べたら、もうちょっと何とかなってたかもね。
……今心の中で呼んだだけでドキドキしたっつーの。
名前すら呼べないこの意気地のないところが、いつも失恋してしまう理由なのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!